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これまでを進化させる。これからを創り出す。パッケージの未来をデザインする商品開発。 これまでを進化させる。これからを創り出す。パッケージの未来をデザインする商品開発。

技術開発部商品開発課課長 細川 武志

日新シール工業が開発したNS-EOSは、コンビニエンスストア、スーパーマーケットで販売されている、加工麺などの容器を包装するためのラベルである。過熱によって収縮し、容器とその蓋とをしっかり固定するという点では一般的なシュリンクフィルム製のラベルと同じだが、開封方法に大きな特徴がある。従来タイプのラベルでは、容器とラベルの隙間に指を差し入れ、横方向に力を加えてラベルに刻まれたミシン目を切り離すのだが、このとき容器の縁に指が引っかかり怪我をしてしまうことがあった。これに対してNS-EOSは、蓋の上部に設けたつまみを手前に引くとラベルの溶着部が剥がれる機構を採用して安全性を確保。開封によってラベルが破れることがないので、ゴミを増やさないというメリットもある。見た目ではわかりづらい、小さな技術である。だが、消費者の安全性を確保するとともに、利便性を向上させた意義は大きい。その開発は、入社2年目の開発部員によって進められた。
※NS-EOSのNSは「日新シール工業」、EOSは「Easy Open Shrink」の略。

基本仕様はそのままに、
機能による課題解決を目指す。

「安全かつ簡単に開封できる包装ラベルを開発できないか」
そんな問い合わせが技術開発部商品開発課に寄せられたのは、2008年11月のことだ。コンビニやスーパーマーケットに加工麺を卸している食品加工会社からの依頼だった。この案件を担当することになったのは、入社2年目の細川武志だ。当時の商品開発課は、技術開発部部長を務める中野勝己と細川の二人だけの部署。細川は同課に配属されてから半年余りという新米だったが、責任ある仕事を任され、やる気に満ち溢れていた。
「スナック菓子の袋が開きづらいという声が消費者からあがっている」
「ペットボトルの包装を、もっと触感の良いものにできないか」
お客さまから寄せられる、こうした課題を解決することは、しばしば新製品の開発につながった。そのため、お客さまの要望に対する新機能開発は、商品開発課にとって最重要業務の一つと考えられていた。ただし、課題解決の道筋が容易に見つかることもあれば、そうでないこともあった。このときの細川も、意気込んで構想に臨んだまではよかったが、効果的な技術のアイデアはなかなか浮かばなかった。
「ミシン目がダメなら、どこをどうやって開けるようにしたらいいのだろうか」
開けやすさを追求するだけなら、素材ごと変えてしまうという手もある。しかし、素材を変えれば、ラベルを印刷、加工するための製造機も変えなければならない。コストが跳ね上がるのは確実だ。そんな割高な新機能はお客さまに受け入れてもらえない。従来の製造機で対応できる、安全に開封できる新たな機構を生み出すことが、細川には求められていた。

立ちはだかる幾多の課題。
しかし、部長の一言で突破口が見えた。

細川が初めに試したのは、ラベルの端と端の貼り合わせに粘着テープを使用する方法だ。接着部の近くには、つまみを設けた。そのつまみを掴んでラベルを手前に引けばスムーズに接着部を剥がせるというわけだ。パッケージの開発では、まず予備実験を実施する。そこで加工方法や使用する材料に問題がないかを確認するのである。問題がなければ次に生産ライン上で加工実験を実施して製造上の課題を確認する。このとき細川は、予備実験を無事クリアしたものの、加工実験でとん挫した。製造機に粘着テープを投入してラベルに貼り付けようとしたのだが、高速稼働している製造機の振動が想像以上に大きかったため、貼り付け位置が安定しなかったのである。これでは製品化は難しい。そこで、従来タイプと同じように、ラベルにミシン目を入れる方法に方針を転換。従来タイプと異なるのは、ミシン目が容器の蓋の上に来るようにしたことだ。その近くにつまみを設け、つまみを引いてミシン目を切れるようにしたところ、開封しやすさはなかなかのものだった。しかしながら問題点もあった。ミシン目はラベルにローラーをかけて入れるのだが、この方法ではフィルムの端からミシン目が始まるような微調整はできない。したがってミシン目の切れ目が端にこないこともあり、その場合はスムーズに切り離せないことが分かったのだ。悩みに悩んだ細川だったが、2本のミシン目を並列かつ互い違いになるようにして入れるという方法を思いついた。これなら、どちらかのミシン目は必ずラベルの端に切れ目がくる。その読み通り、製造機による加工実験でもスムーズに切り離せるラベルを連続して製造することに成功した。
「これは、いけるんじゃないか」
開発がスタートしてから、ここまで2カ月。細川は、実験の結果に大きな手応えを感じていた。だが、試作品を受け取ったお客さまの反応は芳しくなかった。
「わかりづらいな。このつまみを引いて剥がすというなら納得できる。しかし、つまみを持ち、容器を抑えながら手前に引いて切るという一連の動作を、手に取った人はすぐに思い浮かべないだろう。これだと採用は難しいな」
営業からお客さまの反応を知らされた細川は、当初、大きなショックを受けてやる気を失いかけた。だが、中野の言葉を聴いて、すぐに気持ちを切り替えた。
「そんなこともあるさ。我々が良いアイデアだと思っても、お客さまが気に入るわけではない。開発の仕事は、NGを想定しながら取り組んでいくものだよ」
ミシン目案に代わるアイデアの方向性は決まっていた。お客さまの指摘にもあったように、追求すべきは、つまみを引いてラベルを剥がす方法である。粘着テープは製造上の問題から使用できないことは、すでにわかっている。となると、直接、フィルムに粘着剤を塗って接着するか、溶剤でフィルムを溶かして貼り合わせるしかない。細川はそう考えて、これら二つの方法を試すことにした。しかし、予備実験がうまくいかない。どちらの方法も、フィルム同士が強固に接着されてしまい、無理やり剥がすと破れて切り口がギザギザになってしまうのだ。何度も試したが、期待通りにはならなかった。
「行き詰まりました。どうすればいいか分かりません」
細川があきらめ顔で話しかけると、中野は次のように提案した。
「しっかり接着されないように、何かを塗ってみてはどうだろう」
アイデアはこうである。粘着剤や溶剤をフィルムに塗る場合、塗った場所が溶けてしまわないようにコーティング剤を塗っておくのが通例だ。そのコーティング剤を粘着剤や溶剤の上に重ね塗りすれば接着力は低下し、無理なくきれいに剥がせるようになるのではないか──。それは定石から外れたアイデアだった。しかし、開発の仕事では、セオリーに忠実かどうかは大きな問題ではない。お客さまが求める課題の解決というゴールに、どのようにたどり着くかだけが問題なのだと細川は気が付いた。納得すると、細川は開発を急ピッチで進めた。ラベルの接着には、剥がした後がきれいな溶剤を用いることにして、コーティング剤や溶剤をいくつも取り寄せた。そして、どの組み合わせが最適か、濃度はどの程度がいいのかを確認するために幾度となく予備実験を行い、さらに製造機による加工実験も数え切れぬほど繰り返した。

自分が携わった商品が
店先に
並ぶことが
何よりもうれしい。

実験に数週間を費やし、ついに納得のいく組み合わせにたどり着いた。製造上の問題もない。しかし、またしても思いがけない問題が浮上した。加工後、長時間経過したラベルを剥がすと、スムーズに剥がれずに破れてしまったのである。時間の経過にともなって溶剤がラベルにより深く浸透し、粘着が強まることが原因のようだった。このトラブルを解決するために、細川は素材であるシュリンクフィルムを見直すことにした。素材メーカー3社から2種類ずつ同種のフィルムを取り寄せ、溶着部を剥がしても破れにくいものを吟味した。その上で、以前と同じように何種類ものコーティング剤と溶剤を用意して、濃度を気にかけながら最適な組み合わせを探した。この実験は延々と続いた。とにかく根気が勝負。そんな状況だ。しかし、そこで大学院時代の経験が活きた。学生時代、細川は農学を研究していた。農学ではサンプルから思い通りのデータを得られないことが多く、一つのテーマを探求するのに何百もの検体を検査するのは当たり前だった。「機械生産も似ている」と細川は感じていた。絶対にぶれるし、エラーは出るもの。だから、あきらめない。粘り強さこそが自分の信条だった。実験をひたすら繰り返し、経時変化対策を確認して、開発はいよいよ最終段階を迎えた。開発の仕切り直しから、すでに4カ月が過ぎていた。新たに開発したラベルの試作品に対するお客さまの反応は上々だった。機能性の確認など、いくつかの手続きを経てNS-EOSは正式に採用された。初めての納品の際、細川は営業に同行してお客さまのもとを訪ねた。お客さまは、出来上がったラベルの剥がれ具合を繰り返し試しながら、「うまく剥がれるね」とつぶやいた。小さな技術革新だが、お客さまの製品に対して確実に付加価値を提供できるラベルだと細川は確信した。
NS-EOSを使用した商品が市場に登場して間もなく、細川はコンビニへと向かった。昼食時の弁当売り場の一角を占めている加工麺の一つを手に取ると、しばらく見つめて、使用されているのが自分が開発したラベルであることを確認した。こうして自分が開発に携わった製品を触れてみることが、細川の楽しみなのだという。ときには、その商品を購入して、機能に問題がないか確認することもある。
「11年間にわたって商品開発に携わってきましたが、NS-EOSは確かに大変な開発でした。『もう辞めてしまいたい』と何度、思ったことか
(笑)。でも、苦労が多かった分、やり遂げたときの喜びも大きかった。本当にたくさんのことを学びました」と細川は振り返る。
パッケージの開発では、常識を覆すような技術革新を起こすのは容易ではない。だが、それは不可能ではない。やれるかどうかはわからないが、やってみたい──NS-EOSの開発は、細川にそんな認識を抱かせる契機になった。
「日新シール工業の商品開発で活躍できるのは、やはり、あきらめが悪い人でしょうね」 細川はそう語っている。

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